伊藤計劃の日
今年もこの日がやってきた。
伊藤 計劃(1974年10月14日 - 2009年3月20日)の命日。
彼の世界が終わった日。
私は彼の作品について多くを語れるほどの、観察眼はない。
とはいえ、ハーモニーの各章タイトルがNine inch Nails(以下NIN)の曲から取られている、ということに言及していても、彼のおかげでNINを知って聴き始めた人間はそう多くはないだろう、と踏んで今回は小ネタに走ることにする。
そもそもNINってなあに?って人はウィキペディア先生を見てくれ。
一言でいうとトレント=レズナーというアーティストのプロジェクトのことで、西川貴教のプロジェクトがTM Revolutionとしているとの同じようなもんだと思ってくれればいい。
では、本題。
並べ方はハーモニーの章タイトル順にやるでよ。
あと見つかったらyoutubeの動画も張ってる。
ハーモニーの章タイトル<Miss.Selfdestruct>
NIN 1994年 The Downward Spiralより 「Mr SelfDestruct」
伊藤計劃は、人に音楽を進めるのであれば、まずは最高傑作を進めようと言っており、NINのアルバムで他人に進めるのであればこのThe Downward Spiral だと自身のWebサイトで言っていた。
確かにNINの音楽性を語るならこのアルバムは外せない。今でもライブでこのアルバムから曲が使われることが多く、どういう音楽なのかを知るのであれば、まずはこれだろう。
ちなみにトレントが内向的な傾向が強かったころに作っているため、バックで恐ろしい速さのドラムっぽい打ち込みが続くのが特徴。
ハーモニーの御冷ミァハの一面を示しているのかもしれないし、そのミァハを喪失した主人公霧慧トァンの生き方を端的に示したのかもしれない。
ハーモニー章タイトル<A Warm Place>
NIN 1994年 The Downward Spiralより「A Warm Place」
タイトル見ると優しいそうな感じがすると思ったあなた、想像していたものと違う曲調で驚いて、欲しいなあ。
優しい、かもしれませんが妙に残酷さを秘めているというアビエント(使い方として正しいかどうか知らんけど)な曲。
ハーモニーの世界、優しさで窒息しそうな世界を連想しますね。
ハーモニー章タイトル<Me, I'm Not>
NIN 2007年 Year zeroより「Me, I'm Not」
(Beside You In Timeの奴じゃねえか、しかも公式。
めちゃくちゃかっこいい時の奴やん!!)
ハーモニーとしては「転」の章。音楽はやや危うげな印象を持つ曲ですね。主人公トァンの運命や如何に。
ハーモニー章タイトル< The Day The World Went Away>
NIN 1999 The Fragileより「The Day The World Went Away」
最終章。曲のタイトル通りのことが起きるのと同時に、トァンの世界はミァハと一緒に進むことができない時からもう終わっていたのかもしれない。
The Fragileは伊藤計劃が最もNINの中でお気に入りのアルバムであり、「人に進める最高傑作はThe Downward Spiralだが、自分のとっての最高傑作はThe Fragile」とあった。自身のWebサイトでもこのThe Day The World Went Awayについてはかなり言及していたと思う。私も大好きです。語彙力のない人間が言えるのは、ただただ美しい曲である、としか表現できませんが。
死ぬまでにライブで一回聴きたい…
ハーモニー章タイトル<In This Twilight>
NIN 2007 Year Zeroより「In This Twilight」
夕暮れ、黄昏。
ミァハが最後が実際に見た風景であり、見ることが叶わなかった人類の黄昏の風景。
ただ、私この曲聴いてると思うんですよね、ハーモニーにおけるあの最後の後も、意思がどこかにあるんじゃないかと。
夕暮れの後、日が沈んでもまた日は昇るわけですしね。もしそういった人間がいたら、というお話を私が作るとすればハーモニーにおける最後を否定する結果になるでしょうけど。想像するのは人の自由だし、アウトプットする予定も今のところないけど。
おまけ。
奇しくも伊藤計劃が亡くなった2009年 トレントはNINプロジェクトの活動停止を発表。停止前に行った世界ツアーの一環でサマーソニック09のために来日しました。
メインステージのヘッドライナーではなく、そのひとつ前、いうなれば前座です。この決定に対しトレントは「ヘッドライナーを喰ってやる!」と挑戦的なコメントをしていた記憶があります。
間違いなくサマーソニック09のベストアクトですし、「ヘッドライナーを食い破った最高のパフォーマンス」です。残念ながらいわゆる動画として、すべての映像は残っていません。
私はこの時この動画が撮影された会場にいて、今でもよく覚えています。降りしきる雨と稲光、止んだ雨が蒸発し立ち上る天然のスモークが発生するという最高の演出の、体験の中にいました。
月並みではありますが、伊藤計劃もこの中にいて、あの最高の体験をしていたと、そう願わずにいられなかった。この時から10年経ち、いろいろな体験を重ねてきましたが、このライブ、あの中以上の何かには未だに出会うことはありません。汗と雨と涙にまみれて叫んでいました。
「伊藤計劃さん、あなたが好きなバンドの最高の瞬間に今私はいる。生きてあなたもこれを見てほしかった」
今日はここまで。